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朝、もっそり起きたのは黒く長い髪の女。
整いすぎた顔と琥珀色の瞳は、どこか妖精を思わせる。
―――――今日は確か小一と小六の授業だったかな。
りーこちゃんの誕生日が近いからお守り作っとこ。
女――久遠寺絢音は美人である。涼やかで結構な美人である。
しかし、なんかだらしなくて間が抜けてるせいでちょっと魅力が半減してる美人である。
職業は基本的に教師とお守りの飾り紐の制作と販売。
時折、外のゴースト退治の依頼が来るたびに実家に帰って育ての父にお小遣い貰ったり、化粧品やら手芸道具やら服やら酒やら買い込んで鎌倉に帰ってくる。
昼間、絢音は教師として一般人能力者問わず、義務教育に相当する年齢の子供に勉強を教えており、
教え子の誕生日には必ず、飾り紐のお守りを贈る。
以前なら溢れていた子供用の安価なアクセサリーもこの辺では入手しがたいが故に
「アヤせんせい」手作りの飾り紐はちょっとおしゃれしたい年頃の女の子にとっては貴重なアクセサリーなのだ。
そんなこんなでいつも通りに適当に木の実と牛乳(ねぐら兼学校にしている家に自家発電機能があるのは助かる。冷蔵庫が動く故に牛乳の保存はできるし夏場は子供たちと一緒にカキ氷やアイスクリームを作れるのだ!)とパンでささやかな朝食を取った後は、小学一年と六年に教える漢字のテキストや計算ドリルの準備。
ちなみにドリル等の教材や教科書は銀誓館からかっぱらってきた。
自称・銀誓館の教師なのだから別にもってきたっていいですよねぇ?というのが「アヤせんせい」の意見だ。
<オオフナエリア AM11:30>
「はーい、一年生も六年生も国語はここまででーっす!お昼にしましょーう!」
午前の授業が終わり、子供たちはそれぞれ昼食を取っている。
食べ物が足りなくて持ってこれなかった子は絢音が貯蔵している食べ物を貰ったり、
庭の畑のイモなりキュウリなり(あ、キュウリは四年生が観察してるやつだったような…レポート書けるだけ残ってればいいか。)
近くの木から木の実なり取ってくる子も居る。言われなければここがカマクラだとは思わない。せいぜい、田舎の学校ののどかな風景としか思えないだろう。
――――しかし、そんなささやかな平和を壊す無粋な者どもが
「アヤせんせー!!」
教え子の声がする。他の子供のざわめく声がする。あれはりーこちゃんの声。
声がする方を金色の瞳で睨み付ける。
「『教団』!」
見た感じ、一般兵士だろう。たった三人しか寄越さないなんて『教団』は人手不足なのか、それとも私は取るに足らない有象無象なのか。
(が、兵士も対能力者装備を身に付けている。絢音は教団兵との交戦経験がないので知らなかった)
むくつけき男の腕に、りーこちゃんはがっしりと捕らえれられている。
「この辺で一般人能力者問わず勉強を教えている教師が居るという話が聞こえてきた。その思想が危険、もしくは能力者ならば排除する」
りーこちゃんを抱えている男以外の二人が銃を構える。
「銃なんて物騒な物はしまいましょうよー。」
と、言って兵士をたじろがせた瞬間、
「イグニッション!!」
次の瞬間にはオペラ色のワンピースに身を包んだ女が一人。しかし、最も目を引くのは――――
「赤手!」「土蜘蛛か!」
「ええ。それも生まれついての土蜘蛛です。なんか文句あります?」
と、言った瞬間赤手【惑乱の淑女】で銃を薙ぎ払った。ついでに、魔炎で燃やしておく。
能力者とも互角に戦える装備の兵士から一瞬で。
「こんなんで、私を殺せると思いました?一般人みたいだから殺しはしません。ただ、『宗主』に伝えられたら伝えてくださいませんかぁー?
『小さき蜘蛛、黄の山吹にして誇り高き氏族の子は生きている!我は銀誓館の泣き女なり』と。」
多分、赤手という異形の武器を見るのが初めてなのと、自分たちも銃と同じような末路を辿りたくないからなのだろう。兵士はりーこちゃんを降ろして逃げていった。
正直、力無き者を殺すのが嫌だから、っていうかめんどくさいからハッタリをかましてみた。でも、誇り高き氏族の子であるのには間違いは無い。しかし、任務を放棄して逃げた兵士の末路は……。
でも、これで居場所が特定されてしまった。今までどおりののどかな学校は出来ない………。
「アヤせんせい」は子供達を一箇所に集めて話を切り出した。
「さっき来た怖いおじさんたちはあの怖い怖い『宗主』の部下の兵士で、先生がここにいるのはきっともうすぐ判ってしまう。だから先生、みんなを危険な目に遭わせたくないから……直ぐにここを出て行くことにしました。」
教え子の前でこんなにきっちりとした喋りをしたのは初めてかもしれない。
「みんなも、できればここから離れたほうがいいかもしれない。『祈らず』という人の元に行くのを先生は勧めます。でもそれはご家族と相談してね。」
あれ?どうしよう。私含めここにいる全員、涙と鼻水が………。
数時間後、少し大きく大時代なトランクに服やら装身具やら何やらを、ボストンバッグに化粧品やら手芸道具やらを詰め込んで「アヤせんせい」、いや久遠寺絢音は出立した。
さて、どこへ行ったものか。
ツインテールの先輩とか覆面被ってた先輩とかロックな先輩とかやけに凛々しい先輩とか自分より年下なのに落ち着いていた男の子とか、昔馴染みが思った以上に生きているらしい噂は聞いている。
会いに行くのも一つの手だろう。何人かは敵になっているだろうけど。
そんなこんなを思いながら、ぞっとするくらい静かな夜道を軽やかな足取りで土蜘蛛の女は歩いていった。