TW2『シルバーレイン』、TW3『エンドブレイカー!』がメインのキャラブログ。
mauve:ゼニアオイ。花言葉は信念、母性愛/bixbite:紅色の宝石。石言葉は欲情を刺激 それぞれエストの誕生日の花と石。
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ある日の昼下がり。
化粧水の材料を煮詰め終わり、店の入り口の掛札をOPENからCLOSEにして店の奥へ歩いてゆくエスト。
かまどの熱で水を温める仕掛けにより、奥の浴室の湯はちょうどの加減である。
夕方からは孔雀の酒場に出てまた働くので、身支度と休憩を兼ねた入浴は欠かせない日課だ。
そもそもは酒場で住み込みなのだが。
肩まで湯に浸かり、時には頭まで使ってふわりとした感覚を楽しむ。普通の大きさの風呂桶なので、あまりやると湯がどんどんと減っていくが。
一しきりくつろいだ後で、浴室の窓から空や木々を見上げ、
秋の紅葉が木から離れて風に流されてゆくのを眺め、物思いに耽る。
最後まで懸命に治療にあたったものの、助けられなかった人のこと。
その人の家族から逆恨みされ、魔女だ詐欺師だと詰られたこと。
祖母に拾われる前のこと。
次から次へと湧き上がる後悔をあれこれと検分しているうちに、湯はすっかり冷めてしまっていた。
湯船から上がり、髪も身体もあらかた拭いた後。長い髪以外は何も纏わずにじっと姿見を見つめる。
髪も、身長も、脱走した13の歳から随分と伸びたものだと思う。
目を落として最初に見えるのは、左の太ももの内側。10年を過ぎても鮮やかに残る傷痕。
更に目線を上にやれば、胸の間、横隔膜の上辺りには花らしきアザがある。
否、アザでなければ花でもない。
エストが後悔の念や自己嫌悪に苛まれ、寝ている間に無意識のうちに掻き毟った傷。
意識が無いのだから加減が効かず、時には朝起きたら寝巻きに丸く赤い染みができていたこともある。
デコルテや首ならば人目に付き、同情や心配を誘うが、この部位ならそういったことは無いだろう。
無意識とはいえ、自身はそこまで考えているのだろうか?とエストは苦笑する。
酒場に出るための華やかな衣装を着込みながらまたも考える。
エストリッド、いや、エスト・パシオンフローレが薬を商う限り、いや、生きている限り。
この傷は癒える事はない。でもそれでいいのだろう、と納得する。
傷を負った故にエンドブレイカーになったのだから、傷こそが生きる意味なのだろうと。
店舗を出て、酒場へ向かう道を普段より軽やかな足取りで歩く。
ふと空を見上げれば、ほんの少し欠けた月が沈む夕日の反対側で輝いていた――
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